FPの現場観|元本保証は死語

「その運用商品、元本保証なの?」

最近、現役世代のお客様からは、このような言葉を聞いたことがありません。

私が銀行のPB部門で、富裕層のお客様の資産運用アドバイザーをしていた頃は、何度も聞いてきた言葉にも関わらずです。

このコラムでは、リスクに対する考え方が徐々に広まってきている現役世代の変化について述べていきます。

 

銀行の富裕層の資産は円預金

 

銀行で数千万円以上の資産を預金されている方は、

  • 仕事で成功して多くの資金を手に入れた方、
  • 倹約家で預貯金が貯まってきている方、
  • 退職金を受け取った方、

 

等です。

ある程度年齢を重ねていることもあり、1,000万円以上の現金を手にすると、守りに入りたくなります。

私が担当するお客様は、そのような預金額が1,000万円以上の方々でした。(それ以下の金額のお客様には担当者は付きませんでした。)

そのような資産をお持ちのお客様の9割の方は、「1円でも損をしたくない。」というお考えでした。

多くのお客様に資産運用の機会をご案内してきましたが、ほとんどのお客様は

「元本保証なの?」

「でも損をするのでしょ?」

とおっしゃり、資産運用をされませんでした。

銀行に預けているのは、「減らさないため」です。

 

当然です。銀行員の口車にそのまま乗っかっていては、まともな資産運用はできません。

しかし、このような形で、資産運用をお断りされるお客様の多くは、ご自身で資産運用をされているわけでもなく、使い道が決まっているわけでもないケースがほとんどでした。

リフォームに使うのか、孫への贈与にするのか、老後の施設費用にするのか、具体的なことは全く決まっていないが、とりあえず、リスクをとりたくないし、考えるのも億劫なので、円預金で寝かしておきたい、という方がほとんどでした。

各銀行が個人向け国債や、定期預金のキャンペーンを実施しているので、1%を切るようなわずかな利を得るために、様々な銀行に資金を動かされている、というのがせいぜいでした。

どれだけ、他の銀行への振込手続きをご案内してきたか、計り知れません。

そのように大きな資産にほとんど手をつけないまま、健康寿命を迎えてしまわれる方もいらっしゃいました。

 

実際に、2019年末時点で、日本の個人金融資産は1,900兆円に達しましたが、そのうち、「現金・預金」の金額は約1,008兆円となっています。

個人金融資産の半分以上が、銀行に円預金として寝ているということになります。(※1)

 

一方、富裕層顧客うち、1割程度のお客様は、現役引退後も資産運用を楽しまれており、金融マンとのやり取りや、経済ニュースの吟味などを楽しまれており、豊かな第2の人生を歩まれているという印象でした。

私は、9割の資産運用に無頓着な資産家のお客様を見て、日本には資産運用の文化が根付いていないことに、失望していました。

 

 

若者は「元本保証」と言わなくなった

 

銀行を辞め、F Pとして20代〜40代の現役世代のお客様とお話しするようになると、驚くほど現役世代の方々は、投資に前向きであることがわかりました。

 

「損をするのは自己責任だから当然の上で、分散投資の仕方を教えて欲しい。」

「資産運用をしたいが、ネット証券の手続きが複雑で不安なので、基本から教えて欲しい。」

「イデコ やNISAについて、教えて欲しい。」

 

このようなご意見ばかりです。

 

実際に、日本経済新聞からも下記のような記事が報道されています。

 

「インターネット証券で新規口座を開設する個人が急増している。楽天証券では2月の開設数が初めて10万を超え、3月は2月比で3割程度増えそうだという。」(引用)

(出典)「ネット証券、口座開設が急増 株価急落で初心者参入」

2020年3月26日 日本経済新聞 電子版 2020年4月26日検索

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57265710W0A320C2EE9000/

 

 

繰り返しになりますが、私の銀行時代のお客様の中でも1割のお客様は資産運用に積極的でした。

そのような方々の共通点は、現役の頃から資産運用をされてきており、リスクをとることに免疫をもたれているということです。

 

例えば、現役時代の投資金額が延べ2,000万円程度でも引退時にはその資産が3,000万円程度にはなられており、資産運用を継続することに抵抗がないという方々が多かったことを覚えています。損をすることは経験済みであり、資産の半分以上は運用によって増加したものなので、資産が多少変動することは問題がないというお考えでした。

 

今、資産運用に積極的な現役世代の方々は、将来私が担当してきた1割の「資産運用に抵抗がない資産家」になられる可能性が高いと考えています。

 

長期投資によって、20年〜30年の資産運用が有効であることはもちろんですが、資産運用に前向きな方は、投資資金を作るために自ずと倹約家となり、貯蓄思考も高い傾向があるからです。

 

所得水準は低下しているが、投資はできるのか

 

このようなことを申し上げると、

「収入が多い世帯はいいよね。うちには資産を貯める余裕なんてない。」

とおっしゃる現役世代の方々もいらっしゃいます。

 

実際に、日本の1世帯あたりの平均所得は1990年代にピークアウトしています。

例えば、1994年の日本の1世帯あたりの平均所得金額は、約664万円でしたが、2015年にはこの数字は、545万円に落ち込んでいます。(※2)

 

今の現役世代には共働き世帯が増加しています。これは、平均所得の下落による家計を支えるための当然の行動の現れです。

 

もしご夫婦の年収がそれぞれ500万円を超えていれば、世帯年収は1,000万円を超えます。これだけあれば、十分に資産形成は可能です。

しかし、実際に私が共働きの現役世代の方々とお話しをすると、ダブルインカムゆえに、ペアローンにより高額なマンションの住宅ローンを組まれたり、海外で余暇を思い切り楽しむなど、貯蓄以外のお金の使い方をされる方も少なくないと感じています。

ダブルインカムだと収支管理も夫婦別々になり、貯蓄ができているのかできていないのか、あいまいになっているという家庭もお見受けします。

これでは、余裕がないと感じるのは無理もありません。

本当は余剰資金を生み出す余地があっても、です。

 

若い方で資産運用に目覚めていない方は注意

 

もちろん、人生を豊かにするためにお金は使うべきです。

ただし計画的に使うことが重要です。

平均所得が下落傾向の現代でも、消費と浪費の管理をしっかり行い投資に回せる資金を残すことで、資産形成は可能です。

 

働き方改革やテレワークの広がりは

残業代の削減に繋がり、さらなる平均所得の下落の要因になり得ます。

 

そのような状況から副業を始められる方も増えてきています。

収入源が多様化し、収支管理が複雑になるからこそ、家庭によって資産額に差が出てくるであろうと私は考えています。

先述した日本経済新聞の記事のように、証券口座を開設する若者は増えてきています。

このような資産形成に前向きな方々は、しっかりと長期投資で資産を作っていかれるでしょう。

現役世代だけどまだ投資を始めていない、という方は、

日本に資産運用の文化が根付き、皆が当然に知っていることを「自分は知らない」とならないよう、資産運用に少しずつ目を向けていきましょう。

 

 

(参考文献)

※1

参考図表 2019年第4四半期の資金循環(速報)-日本銀行(2020年4月26日検索)

https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf

 

※2

政府統計 平成30年 国民生活基礎調査(平成28年)の結果から

グラフでみる世帯の状況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28.pdf

 

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